亭戯譚

文の保管庫

2021-01-01から1年間の記事一覧

呉幹夫

呉もはじめは心優しい男であった。でないなら、探偵業などするはずもない。実際、ほかの嫌がる雑務みたいな仕事も、歓んで引き受けていたのが呉だった。 呉を知る人間のほとんどから、嫌味もなく「先生」と呼ばれていたから、この辺りで先生と呼ばれるものが…

ベツドの上で眠る時には

ベツドの上で 眠る時には 電気と共に 個性も消して 仮面の下の 醜い顔を 撫で回しつつ 布団の温さ。 私たちには 顔がないので 化粧と共に 夢を落として 一つ残った 形見のような 精神を食むる 下品な灯。 濡らした枕に 謝らなけりゃ 涙と共に 声も枯らして …

詩-2「浜辺の月」

浜辺の月は寄る辺なく いつも何処かが欠けている 僕はそれに腰かけたく 白黒の砂の上に立つ 蒼黒い海の白波からは 細長い腕が飛び出すようで それに引き摺り込まれまいと 僕は両足を踏んじ張る 浜辺の月は青白く いつもにこにこ笑っている 僕はといえば夜闇…